肛門嚢炎と肛門周囲ろう孔
知られているようで、意外と知られてないのが、肛門嚢炎と肛門周囲ろう孔です。
<肛門嚢炎>
犬や猫は、スカンクの様に肛門の両脇に悪臭を放つ、一対の袋状の肛門嚢という分泌腺を持っています。
肛門嚢の内容物は、通常排便の時にいきむと、便と一緒にその開口部から排出されます。
肛門周囲は、常に便や泥などで汚染されていて、病気をおこしやすい環境下にあります。
この肛門嚢が細菌感染を受けたり、導管(嚢にある内容物の出口)が塞がってしまったりすると、嚢内は化膿した膿汁で満たされ、やがて肛門嚢炎になります。
更に進行すると、次第に化膿巣が肛門周囲に広がっていきます。
これを放置しておくと、いずれ肛門嚢の一部が破れてきて痛みを伴い、その創口から膿汁が排出されることがあります。
症状は、痛みなどの不快感、すなわち肛門部を舐める、咬む、または肛門部を床につけて歩く、独特の動作をしたりします。
そして進行と共に、食欲の低下、発熱などが起こり、肛門嚢の皮膚が破れてくると、上に書いた通り、膿汁の排泄や出血が起こります。
<肛門周囲ろう孔>
基本的には、肛門嚢炎の延長線上にあると考えて頂いて間違いではないと思います。
また肛門嚢炎から進行する形だけではなく、肛門周囲の汗腺や毛包に細菌感染が起こり、皮膚炎となり、それが進行して膿瘍が形成されることから起こることもあります。
その皮膚炎が膿瘍を形成して、やがて皮膚に穴が開くのですが(化膿性ろう孔)重度になると、その穴が多数開口し、各々がアリの巣状に繋がるようになります。
その状態が更に進行すると、ろう孔は皮下組織、筋肉へと深部にまで及び、直腸や腹腔にまで達するようになります。
症状は肛門嚢炎とほぼ同じですが、排便困難や便秘、下痢、あるいは便の失禁などを呈し、やがて食欲不振や発熱などになる動物もいます。
<治療>
肛門嚢炎に関しては、初期でしたら、たまった肛門嚢の内容物を排出させると同時に内服薬や外用薬の投与で治癒することもあります。
しかし皮膚が破れて化膿した膿汁が出ている場合は、創口からの洗浄と消毒が必要になってきます。
肛門ろう孔に関しては、程度によっては外科的処置により、壊死(炎症が進んで細胞が死んだ状態)した組織を切除しなくてはならない事があります。
ただ、手術後に便失禁や肛門狭窄を起したり、肛門ろう孔を再発する場合もあります。
<予防>
いずれにせよ、動物に上の症状が起きてないかよく観察する必要があります。
また、初期であれば肛門部を床に擦り付ける仕草をする時は、肛門嚢炎におちいる一歩手前であり、導管(嚢にある内容物の出口)がつまっている為にうまく排出されていなくて、分泌物が溜まっているだけの時がよくあります。
そのような時は、肛門にティッシュを当てて、肛門嚢の内容物を搾り出すようにして排出させることにより、肛門嚢炎の予防が出来ます。
もしご自分で出来ないような時は、掛かり付けの獣医師(もしくはトリマーさん)に依頼するか、先の事を考えてご自分で出来るように搾り方を教えてもらってください。
因みに、肛門嚢の内容物は一般的には排便時に出るのですが、導管が塞がりがちな子達や肛門括約筋が低下していて、排便時に排出でき難い子達に関しては、月に一度の肛門嚢の排出をお薦めしています。